EDWARD GREEN 「DOVER」再考

エドワード グリーン銀座店店長 山西 謙次が「DOVER(ドーバー)」がエドワードグリーンの代名詞と成り得た理由を再考します。

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ドーバーの特徴

靴のデザインには意匠権が無く、今では国内外問わず多くのブランドが同じようなデザインのモデルを発表しています。しかしながら、エドワード グリーン社のドーバーと同じ雰囲気のものは見当たらないはずです。その理由として、まずはじめに32ラスト。そして、2番目に特徴的なモカ縫い部分があります。スキン・ステッチと呼ばれるその手法は、ハンドソーン(手縫い)で無くては成しえないものです。

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前工場長アレックス・バートマンが語るドーバー

ドーバーについては残念ながら、1960年代初頭から1980年代初頭にかけて記録が残っておらず、32ラストやドーバーについての確かな情報を調べる事ができませんでした。そこで社歴の長かったアレックス・バートマン氏(前工場長)に貴重な話を伺うことができました。

1983年、前工場長のアレックス氏がエドワード グリーン社に働き始めたのは16才の時でした。残念ながら現在はエドワード グリーンを離れられていますが、ハンドソーン職人でもありました。

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画像の左がアレックス・バートマン氏

アレックス氏の記憶を紐解き、覚えている限りでは32ラストは、工場で働く誰しもがドーバーと同義語であり、他のデザインはドーバーのように上手くフィットしなかったそうです。32ラストは、エドワード グリーンが保有するラストの中でも、かなり古くから現存しているラストの一つです。前半部分は少し短く、後半部分はやや長く、そしてつま先は、ややスクエアトゥの形状となっています。

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エドワード グリーン社として、これまでドーバーに合う木型の研究に力を注いできました。
1980年代には202ラストを発表し、フィット感を高めましたが、日本では32ラストへの強い憧れや要望がありました。今なお、オリジナルとして色濃く残っています。

32ラストで一番古い情報として残っているのは、1955年のカタログでした。この32ラストの原型にて今日のマルバーンのようなフルブローグのモデルが定番として掲載されていました。しかしながら、1950年代にはドーバーは既製靴として作られていなかった事は、会社設立当初から残っている古いカタログから確認する事ができました。

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ドーバーのスタイルは、エプロンフロントやノルウェージャンシューズ※とも呼ばれ1930年代のロンドンで大流行しました。この靴の原型は、ノルウェーの漁師が履いていたものであり、エスクァワイアの伝説的な編集者O.E.ショーフラーによって1930年代中頃にこのノルウェージャン スタイルの靴がアメリカに紹介されました。そして当時アメリカを旅行していたロンドンからの観光客によってイギリスに持ち帰られ、またたく間に人気のスタイルになりました。エドワード グリーンのドーバーのデザインも、このころ誕生したモデルと言われています。20年と月日を過ぎ、1950年代にやっと産声を上げました。

※エプロンフロント・ノルウェージャンシューズとは、甲部分の切替し部分がUの字型であるユーチップの別名です。名称は、国、地域毎に異なり、イギリスでは主にエプロンフロントと呼ばれています。また、U字型のステッチを施した靴をノルウェーの漁師が履いていた事により、ノルウェージャンシューズとも呼ばれています。

お客様に他のラストでの展開について、よく尋ねられる事があります。
エドワード グリーン社が辿りついた32ラストへのオマージュを持って、あえて32ラストでしか展開をしていないのです、と返答させて頂いております。

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ノルウェージャン スタイル① PHOTOGRAPH BY WIKIMEDIA

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ノルウェージャン スタイル② PHOTOGRAPH BY WIKIMEDIA

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1930年代のロンドンのスタイル① PHOTOGRAPH BY WIKIMEDIA

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1930年代のロンドンのスタイル② PHOTOGRAPH BY WIKIMEDIA

もう一つ重要なファクター ハンドソーン

そして、もう一つ重要なファクターが、ハンドソーンです。手縫いと直訳される、その独特な手法は、3辺の革の断面を合わせ、つま先のセンターは革の接合面を飛び出さないように慎重に縫われています。スキンステッチ、ライトアングルステッチ、ライトウェイトステッチとも呼ばれています。

職人の技術は勿論、良い品質の革である事も同時に求められます。モカ縫いの部分は、革の内部をすり抜け縫われていきます。ベテラン職人のアンドリュー氏でも1日に4足分縫うのがやっとの非常に手間隙かかった価値のある仕様なのです。

アンドリュー氏は、自身で糸を撚り、ワックスを塗りこんでいきます。使うワックスも無論手作りです。
工具は使い易いように自身で改良を重ね、今日に至っています。
ハンドソーンの工程が始まる前に、私達が想像する以上に前準備の作業に時間が費やされているのです。
またアンドリュー氏は、工場内でいくつかの別の仕事も担当しているユーティリティープレーヤーなのです。

オーダー会で来日された際には、工房で作業をする時に実際に使用している椅子を持参し、同じ体勢で作業にあたる徹底ぶりです。その方が、自然な体勢になるのでしょう。

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アンドリュー・ピーチ氏の作業風景

これからも作り続けられるドーバー

ハンドソーンの職人、吊り込みの職人、底付けの職人、仕上げの職人、すべての工程に携わる職人皆の心意気が集まったドーバー故に、多くの方が心惹かれるのだと思います。

これからも作り続けられるドーバー。
永く共に歩むのであれば、共に歩む時間は長ければ永いほど良いのではないでしょうか?

ワインやウィスキーが熟成に時間を要するのと同じように、履いて馴染ませ、履き続けながら、メンテナンスをし、経年変化を共に歩む。気が付けば、10年、20年と時が流れます。いつしか、子供は親と同じ道を辿るかも知れません。手入れの行き届いた永く履きこんだ靴が玄関先にあれば、きっと将来自分の子供にもその価値は伝わるはずです。

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