知性と素材が出会う場所 ― GERNOT LINDNERの真価
知性と素材が出会う場所
GERNOT LINDNERの真価
ゲルノット・リンドナー氏が自身の名を冠して2017年に立ち上げた眼鏡ブランド、GERNOT LINDNER(ゲルノット リンドナー)。 決して長い歴史を持つわけではない、どちらかというと新進である同ブランドを語る上で、眼鏡そのものが持つ壮大な歴史を欠かすことができないというのは、このブランドの興味深さを端的に表していると言えるでしょう。

1941年、オーストリアに生まれたゲルノット・リンドナー氏。14歳の頃、祖母から譲り受けたアンティーク眼鏡の美しさに魅了されてからというもの、蚤の市などを巡ってはアンティークを収集する生活が始まりました。そのコレクションは眼鏡にとどまらず、顕微鏡、ルーペ、検眼機器、延いては眼鏡店の看板に至るまで、光学にまつわるありとあらゆるものを収集し、その数は眼鏡だけで3000本以上に上ったといいます。
そんなゲルノット氏が眼鏡を生涯の仕事とするのは必然の流れでした。
18歳で眼鏡士としてゲゼレ(国家資格)を取得、さらに23歳でゲゼレの上位資格に位置するマイスター試験に合格。
24歳からはマイスター資格者としてアメリカン・オプチカル ドイツ支社での仕事を始め、20年にわたって同社でのキャリアを築きました。
その後独立し、現在もドイツ アイウェアの雄として世界中にファンを持つLUNOR(ルノア)を立ち上げるに至りますが、その前に少しアンティーク眼鏡の魅力についても触れておきましょう。

17~19世紀、人々はまだ識字率が低く、眼鏡は字の読み書きを仕事とする聖職者、貴族、学者などの特権階級の持ち物で、知性と権威の象徴でした。
当時、眼鏡は一つひとつ職人の手作りで作られ、富裕層向けであるため、素材も金や銀、プラチナ、べっこう、バッファローホーンなどの贅沢なものが使われる装飾品でした。
また、眼鏡ケースも眼鏡同様に価値のあるものでした。ガルーシャ(エイ革)や金箔、パールなど、こちらも贅沢な素材を使用し、職人が仕上げたものでした。
このように眼鏡は現在のように大量に消費していくものではなく、親子で受け継がれていくほどに大切なものとして扱われていたのです。
そんな古き良き時代に生産されたアンティーク眼鏡の美しいエッセンスを尊重すると同時に、現代的な掛け心地や耐久性も両立させた本物の眼鏡を提案するために、1990年、ゲルノット・リンドナー氏はルノアを立ち上げます。
フランス語で眼鏡を意味するLunettesと金を意味するOrをつなぎ合わせた造語であるブランド名のもと、最初に発表したコレクションは16K無垢のリーディング眼鏡でした。

その後、ルノアを成長させたのち、2010年頃にはデザインの一線から遠のき2012年に引退します。
一方でデザインを休止したころから再びある心残りへの強い思いが再燃します。それはルノア時代から幾度となく挑戦を重ねた、銀を使用した眼鏡の製造でした。
中世ヨーロッパでは銀は富の象徴であり、18~19世紀の眼鏡の素材の一つでもありました。月の象徴、ムーンカラーと呼ばれた銀にかねて強い関心を持っていたゲルノット氏は、ルノア時代にも銀を使用した眼鏡の製造を試みますが、剛性、弾性にかけることから非常に難易度が高く、また、日夜ルノアの仕事に追われていたこともあり、じっくりと銀に向き合うこともできませんでした。
そんな中、引退後に再び湧き上がった創造への意欲を、長年一緒に眼鏡作りをしてきたパートナー、さらに2人の息子と共に昇華させるべく3年の歳月をかけて研究を重ね、スターリングシルバーの質感は損ねずに眼鏡に必要な剛性と弾性を備えた加工を実現したのです。
そして2017年、ゲルノット氏は満を持して自身の集大成となる純銀製の眼鏡コレクションを手掛けるブランドを、自身の名を冠して立ち上げたのです。

(上)アイウェア ¥144,100
(下)アイウェア ¥136,400
特徴はまず何と言ってもその素材使い。 アンティーク眼鏡に古くから使用されてきた素材である銀。当時はより加工しやすいシルバー800の使用が主流でしたが、ゲルノット リンドナーではより純度の高いシルバー925を使用しています。 加工を可能にしたのは長年の研究で独自に開発した強い圧力を加えることのできるプレス加工機。この加工機でシルバーに剛性と弾性をもたらします。 ちなみに中世ヨーロッパではシルバースミスと呼ばれる職人の手によって、叩くことでその強度を増す加工を行なっていました。 また、ゲルノット リンドナーでは、ネジとアセテートパーツを除き、全てを同社のシルバー眼鏡専用工場で一貫生産し、徹底したクオリティー管理がなされています。

ストラスブルゴで展開するアイテムは全部で4モデル
〈GL500・GL600〉
アセテートのフロントにシルバーのテンプルを組み合わせたシリーズ。
フロントに埋め込まれたヒンジパーツもシルバーで作られています。
〈GL100・GL150〉
18~19世紀のアンティーク眼鏡に見られるサドルブリッジが採用されたモデル。
サドルブリッジとはノーズパッドがなく鼻に乗せてかけるタイプのブリッジスタイル。
ノーズパッドが発明される1920年以前のスタイルで、馬の鞍のような形からサドルブリッジと呼ばれています。

ゲルノット氏が最初のルノア コレクションを発表した頃、ドイツではマスマーケットへ向け既成のパーツを使用した数多の眼鏡ブランドが氾濫していました。
そんな中、ゲルノット氏が眼鏡を通して表現したかったのは、かつての眼鏡が持っていた、道具として、装飾品としての深い魅力。
だからこそどうしてもこだわりたかった銀という素材。美しく上品な輝きを湛え、世間的には主にアクセサリーとして流通していたシルバー925を、強い思いのもと長い歳月の末に眼鏡へと進化させたゲルノット・リンドナー氏。その眼鏡はまるで時代を超えて蘇ったアンティークであり、この先の長い年月を経て本当の意味でのアンティークへとなっていくでしょう。
ぜひ、店頭でその眼鏡に触れ、眼鏡に宿った悠久の時を感じてみてはいかがでしょうか。
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