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山西 謙次のユタ・カーフ特集

ライター:山西 謙次さん(EDWARD GREEN事業部課長/銀座店店長)

エドワードグリーン、フィリップアテンザ等を担当。商品のバイイング、来日オーダー会サポート、フラッグショップ店長などの日々の業務までこなす。靴業界に長く携わった経験により、日本を始めイギリス、イタリア、スペイン、フランス等、各国のシューメーカー及びタンナー、ファクトリィに精通している靴のプロフェッショナル。

黒靴が一般的な世の中でダークオーク色を発表し、英国紳士のスタイリングに大きな一石を投じたエドワードグリーン。アンティーク加工が施されたダークオーク色は、経年変化はもとより、英国紳士の着こなしを大きく変えたのではないでしょうか?そして、昨今まで様々なレザーの種類を使用してきました。

その中でも今回は「ユタ・カーフ」と呼ばれる皮革についてご紹介させていただきます。「ユタ・カーフ」のタンナーはフランス北東部に位置するアルザス地方にあるHaas Tanneries(ハース・タナリーズ)にて作られています。歴史的にも古くからタンナーが集まる地方であり、1842年より代々の創業家が事業を引き継ぎ、現在は6代目が切り盛りしています。山間部から流れ出る豊富な水源は、皮を鞣す上で必要不可欠な要素です。創業者のアロイース・ハース氏は分水路を作り、今でもそこから引かれた水を使用されています。

このカーフは9種類のオイルを染み込ませた特別な皮革です。ふっくらとした肉厚な革は、栗、ミモザ、南アメリカ原産の木材ケブラッチョの樹皮などを混ぜ合わせ、鞣されている為に柔らかさも感じていただけます。通常のカーフに比べ、油分を多く含んでいる為、耐水性のある皮革で日本の気候にも最適です。(防水皮革ではありませんのでご注意下さい)また表面の格子状の模様は、伝説のトナカイ皮革ロシアン・レザーに類似しています。ロシアの広大な土地の中で繁殖していたトナカイを独自のロシア由来の材料でなめされた革は多くの人を惹き付けます。まだ海の底に眠っているとも言われていますが、この話はまたいつかにしましょう。。。
さて「ユタ・カーフ」を用いた商品のラインナップは4型あります。

DOVER/32E ¥201,960(税込)
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耐水性に由来するハンドソーンとの相性は、言わずもがなです。モカ部分を縫う際に使用される糸は蝋引きですが、靴をケアする際には、DOVERに限らずステッチ部分にもしっかりと油分を補ってあげる事が非常に重要です。ステッチが乾燥して切れてしまうと、エドワードグリーンの工場でもDOVERのモカのステッチは修理が出来ません。アッパー、ステッチ、そしてコバ周りもしっかり補充してあげれば、オールマイティーに使って頂けます。底はラバー・ソール。R2と呼ばれるソールは、ラバーでハーフミッドソールを実現しています。ソールの細かな凹凸は、他のラバー・ソールより確かなグリップ力を生み出します。

CAMDEN/82E ¥194,400(税込)
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チェルシー・ブーツのショートバージョンがCAMDENとなります。DOVERに比べパーツの革が大きく、つま先は釣り込まれる際の力加減で、よりツルっとした表情になっています。同じ皮革を用いてはいますが、異なる趣きは天然素材ならではです。つま先の透明感のある模様から、ヒールにかけて、徐々に表情が変わっていく様子は、シンプルなデザインがあってこそです。油分が多い事で、多少の擦り傷も、揉みこんであげれば、自然と馴染んでいきます。出張先での移動や仕事後で履き替えるにも持ってこいの靴です。また、雨の日にも履くと足首周りが濡れる事が無いので、快適に過ごせます。

BORROWDALE/72E ¥176,040(税込)
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FROSWICK/72E ¥176,040(税込)
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最後は、この2足をご紹介。パンチド・キャップ・トゥのFROSWICKとフルブローグのBORROWDALE。ボリューミーなこの2足は、皆さんのエドワードグリーンのイメージでは一番遠い靴かも知れません。(玄人向け?)エドワードグリーンでは、昔は乗馬ブーツ、軍靴、近衛兵用のブーツなどとともに、カントリー・タイプのものを多く作っていました。カントリー・タイプだからといって、フィット感が甘いと思った方は、ぜひ履いて頂きたいです。エドワードグリーンならではのフィット感は健在です。その上この2足はストーム・ウェルト*があり、ソールについてはリッジウェイ・ソール*仕様となっています。そして上品な顔付きとなれば、他ブランドのカントリーシューズを凌駕します。ボリューム感のある、"ダサいおじさんが履きそうな靴"を意味するDAD SNEAKERが流行っているようですが、FROSWICKやBORROWDALEのボリューム感は足元に安定感をもたらします。コーディネイトのしやすさと、ステータス性を出したい方は、ぜひトライして見てください。

*ストーム・ウェルト:日常生活の雨ぐらいでしたら、水などを入り込みにくくするウエルトの製法です。

*リッジウェイ・ソール:イギリスのダイナイトブランドから生まれた"あぜ道"を意味するリッジウェイソール。ソフトなフィッティングでグリップ力は強いです。

Haas Tanneries

最後にハース・タナリーズの貴重な内部をご覧頂きたいと思います。

ウェットブルーの状態の革は、アルザスの水が詰まっています。革が鞣された初期の段階です。

植物由来のベジタブル・タンニングの工程です。革の色と言えば、このような色を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

大量の蒸気で、真皮層を整えている工程です。のちに銀面と呼ばれるものに変わります。

革の表面を整えている工程です。まだ、動物の荒々しさを感じます。

回転する機械の中に革を通し、革に輝きを与える工程です。

染色された革を乾かしている工程です。乾燥ののちに、革の表面の風合いを保つようにコーティングされます。

最終工程です。

完成された革です。この革で作ったら、きっとカッコいい靴になるんだろうなと想像してしまいます。

工場の使われなくなった煙突は、素敵な巣となっています。このように、鳥が巣を作れる自然な環境があるという事は、非常に素晴らしい事です。最後に貴重な画像を提供して頂いた友人に感謝を述べたいと思います。ありがとうございます。