セレクト書店 店主
森岡督行
毎回、ゲストの方がストラスブルゴのセレクトアイテムからお気に入りを選定し、セルフスタイリング。その着こなしについて語っていただくのがこのコンテンツ。15回目は、一冊の本を売る書店として知られる「森岡書店」店主の森岡督行さんのコーディネートをご紹介します。〈オラッツィオ・ルチアーノ〉のスーツを纏ってライフワークでもある古ビルをチェックしに、銀座の街を散策していただきました。
足元をスニーカーにした現代版"古本屋スタイル"。
僕は、普段からシャツを着ることが多いのですが、これは、神田の古書店に就職した時からのルーティーンみたいなものなんです。当時は、ブレザーにシャツを合わせてスラックス。だけど、足元はなぜかサンダルというのがルールでした。頻繁に倉庫へ在庫を取りに行くので、すぐ脱げるようにするためだったんです。そのお店は明治時代から続く老舗でしたが、おそらく昭和の時代から変わっていないスタイルで現在でも同じかもしれませんね。今回は、〈オラッツィオ・ルチアーノ〉のネイビーのスーツを選んでみました。やっぱり、ネイビーのスーツを着ると自分の原点である古書店時代の気持ちに戻るというか、初心に帰る気分ですね。いや、なんとうか、古書店時代に本を磨いていた自分を思い出します。このスーツはモヘアが入っているんですね。僕は初めてモヘア入りのスーツを着ましたが、思っていたよりも通気性がいい。夏向けという意味が良く分かりました。それにナポリ袖は軽快だと聞いていましたが、着てみたら、本当にその通りだとおもいました。
実は昨年、銀座のテーラーでスーツを誂えたんです。それは直線的な雰囲気で気に入っていますが、この〈オラッツィオ・ルチアーノ〉は真逆のかっこよさがありますね。曲線が美しくて、普段から歩いている銀座の街の雰囲気に合っているように思います。銀座の柳の流線に近いイメージが広がります。ネイビーのスーツに、〈コム デ ギャルソン フォーエバー〉のちょっとモード的なデザインのシャツを合わせました。時計は、銀座の街ということでヴィンテージの〈セイコー〉のジャイロマーベルを着けてきました。足元は、ここ最近、すっかり気にいっている〈ホカオネオネ〉の白スニーカーです。歩行がとてもしやすくていろんな人に薦めています(笑)。いわゆる銀ブラにぴったりですし。まさに、古書店スタッフの現代版スタイルですよ。
最近特に思うのですが、SDGsや地球の環境のことを考えると、やっぱり長く 着られるもの(使えるもの)という観点は必要です。一過性のものやトレンドも時にはいいですけれど、この〈オラッツィオ・ルチアーノ〉のようなスーツは数十年単位で着られる。大切に使うことが無駄につながらない。銀座に点在する古いビルも同じように思います。その建築の素材やデザインは、おそらく現代では様々な理由から再現しにくい。僕が借りている今のお店のビルも含めてみんなで大事にし、ずっと街の風景であってほしいです。
ORAZIO LUCIANOとは?
1992年に、〈キートン〉の創業当時のマスターカッターを担ったオラッツィオ・ルチアーノ氏が立ち上げたブランドで、現在は、息子のピーノ・ルチアーノ氏が運営。その豊富な経験から生み出される大胆で精巧なカッティングが真骨頂である。ナポリのサルトリアとして最高峰に君臨するブランド〈サルトリア・ナポレターノ〉が持つ柔らかな縫製や着心地など、伝統的な部分を現代に継承しながらも、モダナイズされた丸みのある立体的なフォルムとのバランスが実に秀逸である。
森岡督行
1974年、山形県生まれ。1998年に一誠堂書店に入社。2006年に独立し、茅場 町の古いビルにて古書店兼ギャラリーとして「森岡書店」をスタート。2015年5月5日に銀座へ移転し、"一冊の本を売る書店"という新しいスタイルの「森岡書店 銀座店」をオープン。近著に『800日間銀座一周』(文春文庫)、『ショートケーキを許す』(雷鳥社)があるなど著書多数。『花椿』(資生堂)、『本の窓』(小学館)、『Richesse』(ハースト婦人画報社)などでコラムを連載中。
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