古生物学者 平沢達矢
ELEMENTS OF STYLE CRUCIANI
Style No.16
セレクト書店 店主
森岡督行

毎回、ゲストの方がストラスブルゴのセレクトアイテムからお気に入りを選定し、セルフスタイリング。その着こなしについて語っていただくのがこのコンテンツ。前回に引き続き16回目は、「森岡書店」店主の森岡督行さんが登場。〈エドワード・グリーン〉のシューズと〈シセイ〉のベルトを書店員らしくクリーンで上品なカジュアルスタイルに仕上げていただきました。


90年代のファッション誌が思わぬヒントに。

ファッションはそう詳しくなく、親しんでいるという立場ですが、最近、これは、自分のファッションにも繋がっているなと思えることがあったんです。きっかけは、日本の文化について考えたことでした。例えば、陶芸家の故・黒田泰蔵さん、音楽家の故・坂本龍一さん、写真家の杉本博さん、木工作家の三谷龍二さんなどの作品は、マイナスの美意識で、削いでいくことで物の本質を見出しているのではないかと。それらを繰り返し行い、少しずつ違いをつける。少しの違いを見せ、少しの違いで選ぶという意識のあり方は、日本美術の一つにはあるなと思ったんです。これを僕なりの言葉で表現すると「単純と反復」かなと。前置きが長くなりましたが、そんな思考でファッション(スタイル)を考えてみたんです。なかでも〈エドワード・グリーン〉のモノづくりの姿勢に共感する部分がとても多く、このローファー(デューク)を選んでみました。伝統を受け継いだ職人が、幾度も同じ作業を繰り返して作られた一足のローファー。このフォルムに惹かれますね。丸みがある、けれど野暮ったくない線がきれいなのが素晴らしい。僕は、失礼ながら初めて身につけましたがこの〈シセイ〉のベルトも気に入りました。リング部分の磨きがとても美しいんですよね。さり気ないことですが、その線の細さも魅力的だと感じます。

コーディネイト

シャツは、〈コム デ ギャルソン〉のフォーエバーで、ボトムは、〈リーバイス〉501のブラックデニムです。最近、仕事でも90年代の日本の雑誌についてリサーチする機会が多く、当時の雑誌を見ることが増えました。実際に、古書業界では、90年代の雑誌が人気で常に品薄のようです。チェックメイト(講談社)というファッション誌をパラパラとめくっていたら、自分が高校生の時に読んだ記事を発見し、記憶が蘇ってきたんです。東京の高校生が渋カジ、キレカジを着こなしている写真で当時の自分にフラッシュバックしましたね。それが、ブラックデニムとネイビーのシャツのコーディネートだったんです。スタイリングとしては単純ですが、そのアイテムは時代に左右されない(反復)というセンスに惹かれました。雑誌のスタイリングにあこがれて自分の服を決めるこという体験が、懐かしくも新鮮な感じがしましたね。

コーディネイト 細部

90年代の雑誌には、ある種の勢いがあったと思います。まだインターネットが生活のすみずみに浸透する直前。情報源はほぼ雑誌に集約されていましたが、広告には、デジタル化の波が押し寄せている。そのはざまで、いろんなカルチャーを紹介する企画が、いわば一発勝負で行われていた。ファッション誌には、大量のスタイリング写真やスナップ写真がありましたね。僕なんか、目を皿にしてそれを見ては、そのまんま参考にしていましたよ。今回のストラスブルゴのスタイリングからまさか、90年代のカルチャーに繋がるとは思ってもいませんでしたが、そういう意味では、今が時代のはざまなのかもしれませんね。

EDWARD GREENとは?

1890年にエドワード・グリーン氏がノーザンプトンの小さな工場で紳士用の手作り靴の製造をスタート。瞬く間に「英国でも稀代の才気煥発な靴職人」として名声を上げることになり、最も品質の高いグッドイヤー・ウェルトシューズカンパニーとして、アーネスト・ヘミングウェイからウィンザー卿など名だたる人物を顧客に持つまでに。以後、ジョン・フルスティック氏によって受け継がれ、グッドイヤーウェルト製法の靴の最高峰として歴史に名を刻んでいる。

CISEIとは?

2006年にフィレンツェで日本人デザイナーの大平智生によりスタート。イタリアで学んだ伝統の技術を守りながら、良質な素材のみが持つ質感をダイレクトに伝え、さらにシンプルで機能性に富んだ鞄作りをモットーにしている。

森岡書店店主 森岡督行
森岡書店店主

森岡督行

Yoshiyuki Morioka

1974年、山形県生まれ。1998年に神田神保町の一誠堂書店に入社。2006年に独立し、茅場町の古いビルにて古書店兼ギャラリーとして「森岡書店」をスタート。2015年5月5日に銀座へ移転し、"一冊の本を売る書店"という新しいスタイルの「森岡書店 銀座店」をオープン。著書に『写真集 誰かに贈りたくなる108冊』(平凡社)、『BOOKS ON JAPAN 1931-1972 日本の対外宣伝グラフ誌』(ビー・エヌ・エヌ新社)、『荒野の古本屋』(晶文社)など。2023年3月には新刊となるエッセイ本『ショートケーキを許す』(雷鳥社)が発売。

ARCHIVE

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[13] 古生物学者 平沢達矢 × CRUCIANI

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[12] 江口洋品店・江口時計店 店主 江口大介 × EDWARD GREEN

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[11] 江口洋品店・江口時計店 店主 江口大介 × EDWARD GREEN

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[10] ファッションエディター・ファッションジャーナリスト 矢部克已 × CRUCIANI

23ss 03

[09] ファッションエディター・ファッションジャーナリスト 矢部克已 × KITON