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FOCUS ON Vol.10 STRASBURGO
たっぷり語りたい、あのブランド・この名品

美しき"丸み"を生み出す
温かな手仕事

10年以上のロングセラーを続ける、シセイの代表作「941」。
最大の魅力といえるのが、有機的で優雅な"丸み"です。
それを生み出すのは、芸術の街・フィレンツェの美意識、
そして、労苦を惜しまない手の温もりです。
一見シンプルなトートに込められた、
優しきクラフツマンシップの魅力に迫ります。

日本人離れした感性と、日本人ならではの美意識

シセイの代表である大平智生氏が、コロナ禍のロックダウンに1本の動画を制作しました。題名は、「シセイのトートバッグが出来るまで」。フィレンツェに構えるアトリエで、ブランドを代表する名作のメイキングストーリーを収めたものです(動画中では掲載モデル「941」のサイズ違い「946」を製作)。その全容を見ると、想像以上に多くの手仕事が費やされていることに驚くはず。職人技の見せどころであるハンドルに始まり、裏地やジッパー、底鋲ひとつに至るまで、妥協なく丁寧に作られていることがわかります。

2006年にデビューしたシセイは、クラシックファッション業界に大きなセンセーションをもたらしました。フィレンツェ在住の日本人職人が手がけるブランドというのも話題でしたが、何よりその佇まいが異彩を放っていたのです。随所に丸みを効かせた柔和な仕立てなのに、そこはかとないエレガンスが立ち上る。"日本人離れした表現力だ"と絶賛されました。2009年に誕生した本作「941」もそんな顔つきが大人気を博し、スーツやジャケパンにも合う"ドレストート"の金字塔を打ち立てることに成功します。

ジャパンブランドから多くのフォロワーが登場した現在の視点で見ても、シセイのバッグはメイド・イン・フィレンツェならではの趣を確かに宿しています。しかしそんな顔つきを叶えるのは、日本人らしい実直で抜かりのない手仕事。その点において、シセイのクラフツマンシップは唯一無二といえるでしょう。

品格と柔和さの両立を生む、しなやかなレザー

シセイの作風に欠かせないのが、しなやかで上質なレザー。こちらはシュリンク仕上げにより柔らかさを高めた「LDカーフレザー」をメインに使用し、ドレス感を香らせつつリラックスした柔らかさを表現しています。開口部の両端をスナップボタンで留めることで、容量の調節とデザイン性を両立しているのが「941」の特徴ですが、そんな機能美を叶えるためにもソフトなレザーが欠かせません。

ちなみに、ライニングにはピッグスエードを採用。内側が目につきやすいトートバッグだけに、こうした素材使いも高級感を高める要因となります。

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丁寧にパイピング仕上げが行われたコバ周りを彩るのは、ゴールドのスナップボタン。こうした金具ひとつにも大平氏ならではのセンスが垣間見えます。開口部にジッパーを取り付けることで中身を保護するトートも多いなか、こちらはあえてボタンを採用することでシルエットの曲線美を引き立てています。

誕生から10年あまりの歳月を経た今なお、非常に高い評価と人気を維持する「941」。イタリアと日本の美意識が結実した、偉大なスタンダードです。