趣味を愉しみ
スタイルを磨く。
九島さんにとってファッションは、単独で成り立つものではない。趣味という域を超え、自らのライフワークとなった車という土台の上にファッションは存在する。あくまでもファッションは、カーライフの一部であり、その自分の生活や趣味とのバランスを考えたコーディネイト作りを心掛けているという。例えば、今日着ている<CIRIELLO(チリエッロ)>のシャツもその一例だ。
「雑誌『LEON』ではクラシコイタリアの魅力をたくさん学びました。イタリアの服って、日本人の体型にもすごくハマりが良くて、着こなしやすいんです。<チリエッロ>のシャツも、リネンの風合いが夏にぴったりで、スキッパーのデザインも少しセクシーさがあって魅力的。サラッと着られて、気取らないのがいいんですよ」

英国車を学ぶ上で、九島さんが興味を抱いたのが、イギリスの「ジェントルマンカルチャー」だ。ロンドンのDunhillボードンハウスを訪れ、格式ある社交空間に身を置く中で、装いだけでなく、立ち居振る舞いや嗜みの奥深さに魅せられた。ジェントルマン文化との出合いが"趣味"の価値観をも変えたという。その体験をきっかけに、ゴルフをライフスタイルに取り入れるように。
「日本で言えば、ゴルフ倶楽部が最もジェントルマンカルチャーに近い場所ですね」と語る九島さんは、ファッションだけでなく、礼儀作法や会話の美学にも心を配るようになった。
さらに葉巻文化もまた、彼の嗜みの一部となった。初めて味わったのはロンドンでのこと。
「空間の香りや時間の流れまでもが変化するような感覚がありました。それ以来、葉巻はただの嗜好品ではなく、"自分の時間の使い方"を象徴する存在になりました」

今回、九島さんが<チリエッロ>のシャツに合わせたのは、次の4アイテム。サングラスは、<ドントパニック>。腕時計は、<ティモール>のミリタリーウォッチ。足元は、クラシックな<スペルガ>。ショーツは、九島さんが手がけるブランド<ザ デュークス ゴルフ>。これは自身が立ち上げたゴルフウェアブランドで、ヨーロッパのリゾート地でよく見かけるスキッパータイプのポロシャツやショーツが日本には少ないことから、「自分たちで作ろう」とアパレル業界の知人とともにスタートした。
そんな九島さんは、上質な体験を提供するイベントプロデュースにも長けている。この日訪れた「ポルトローナフラウ青山店」では、過去に40万円を超えるコニャックを用いた試飲会を主催し、選ばれたゲストと共に特別な夜を演出するトークイベントも企画。以来公私に渡り付き合いを重ねているお馴染みのインテリアショップだ。こうした活動全体に共通するのは、「生活を豊かにするためのディテールへのこだわり」。装い、趣味、交友、すべてが"九島スタイル"として昇華されている。
「コロナ禍に大型自動二輪の免許取得に挑戦したんです。モータージャーナリスト(四輪)という肩書きなので一発合格へのプレッシャーもありましたが、なんとか合格できました(笑)」。
日々自分を拡張し続ける九島さんにとっては、車もバイクも「変わり続ける自分」を支えるピースの一部なのだ。
CIRIELLOとは?
1982年の創業以来、40年以上にわたってシャツ専業を貫いてきたCIRIELLO(チリエッロ)。ナポリのテーラリング業界の中でも出色のファクトリーとして知られ、これまでも数々の有名ブランドや世界的サルトリアのシャツを手掛け、そのクオリティーを陰で支えてきた存在。特徴は、温もりにあふれた手縫いと精緻なミシンステッチの双方においてトップレベルの技術力を備えていること。チリエッロのように柔らかさと端正さを高いレベルで両立できるブランドは極めて稀有な存在である。

九島辰也
1964年東京都生まれ。外資系広告会社から転身、自動車雑誌業界へ。Car EX(世界文化社 刊)」副編集長、「アメリカンSUV/ヨーロピアンSUV&WAGON(エイ出版社 刊)」編集長などを経験しフリーランスに。その後メンズ誌「LEON(主婦と生活社 刊)」副編集長、フリーペーパー「go! gol.(ゴーゴル;パーゴルフ刊)」編集長、アリタリア航空機内誌日本語版「PASSIONE(パッショーネ)」編集長、メンズ誌MADURO(マデュロ)発行人・編集長などを経験する。2021年7月よりロングボード専門誌「NALU(ナルー)」編集長に就任。現在は、モータージャーナリスト活動を中心に、ファッション、旅、ゴルフ、葉巻、ボートといった分野のコラムなどを執筆。クリエイティブプロデューサーとしても様々な商品にも関わっている。愛車はフィアット500ツインエア(2013年型)、アルファロメオスパイダー(1980年型)、ジャガーXKR(2005年型) 東京・自由が丘出身。