靴磨き職人 長谷川裕也
毎回、ゲストの方がストラスブルゴのセレクトアイテムからお気に入りを選定し、セルフスタイリング。その着こなしについて語っていただくのがこのコンテンツ。5回目に引き続き、6回目に登場するのは、靴磨き職人として店舗Brift H/ブリフトアッシュを展開する長谷川裕也さん。職業柄、何百足もの靴に触れ、多くの紳士たちの足元を見てきた彼が今回選んだのは、〈エドワード グリーン〉のシューズ。長谷川さんが提案するセルフスタイリングをご紹介します。
<エドワード グリーン>を
パンクにアレンジ
世界中に銘品と呼ばれる靴がありますが、やっぱり英国靴の〈エドワード グリーン〉ってみんなが憧れる靴ですよね。数多くの名作があるなかで、このモデル「DUKE」は初めて手に取りました。比較的新しいモデルなんですね。僕の今の気分だと、グラマラスでカッコいい靴よりもちょっと野暮ったいものが好みなんですが、これはいい意味でアメリカンというかフレンチな顔をしている感じが好きです。一見なんでもない風に見えるんだけど、実は上品ってところがいいですね。一般的に考えれば、きれいな格好に合わせるのが正解なんでしょうけれど、僕はやっぱりちょっと外したスタイリングにしたくなります。なので、パンクなテイストをミックスしてみました。パンツは、イギリスの生地ですが、実は、前回(第5 回参照)のコーディネイトに使ったチノパンと同じシルエットで仕立てたものなんです。インナーのTシャツは、最近好きで集めているビンテージのTシャツです。上品でクラシックな靴に、あえてやんちゃなものを組み合わせるという狙いです。
僕は、どうしても正統派一辺倒みたいな着こなしにはしたくないんです。そういう考え方は、店で販売している靴磨きの道具にも反映されています。例えば、靴磨き用のブラシ。本来は、きれいなウッドの柄なんですが、あえてクラッキングさせて個性的なデザインにしています。それと、靴クリームも同様ですね。金ラベルでゴージャスに見せていますが、これの元ネタは、ストリートカルチャーで見かけるステッカーがイメージソースなんです。ちなみに僕自身も若い頃はスケーターでした。それもあってクラシックな靴業界に、あえてストリートなエッセンスをミックスしていくという考え方を、意識的にしているんですよ。
靴の選び方って本当に難しいんですよね。1人の職人が数年かけて作る工芸品のようなものもあれば、工業製品みたいに作られる靴もある。それぞれに魅力がありますけど、僕の中では実はブランドが重要なんです。ミーハーな意味で捉えてほしくはないのですが、ブランドタグにはとても重みがあると思っています。長い間築き上げられてきたブランドの歴史や技術の蓄積によって信頼感を勝ち取ったという事実が記されているんですよね。もちろん、良いものは良いって感じで選びたいとは思っていますが、やっぱりブランドタグの重要さは考えてしまいます。そういう意味では、今回選んだ〈エドワード グリーン〉のこのローファーも信頼感の賜物ですから人気があるのも頷けますね。
EDWARD GREENとは?
1890年にエドワード・グリーン氏がノーザンプトンの小さな工場で紳士用の手作り靴の製造をスタート。瞬く間に「英国でも稀代の才気煥発な靴職人」として名声を上げることになり、最も品質の高いグッドイヤー・ウェルトシューズカンパニーとして、アーネスト・ヘミングウェイからウィンザー卿など名だたる人物を顧客に持つまでに。以後、ジョン・フルスティック氏によって受け継がれ、グッドイヤーウェルト製法の靴の最高峰として歴史に名を刻んでいる。
長谷川裕也
1984年千葉県生まれ。20歳の時に、東京駅・丸の内の路上で独学の靴磨きを始める。日本初の靴磨き専門サイト「靴磨き.com」を立ち上げ、2008年には、南青山に靴磨き専門店Brift Hをオープン。「世界の足元に革命を!」をモットーに、業界を牽引。著書に、「続、靴磨きの本」(亜紀書房)、「自分が変わる靴磨きの習慣」ポプラ社など。